先日、当店で食事をされたお客様から「ここのひやむぎは山形の麦きりに似ているね」と言われました。調べてみると庄内地方の郷土料理に「麦きり」というひやむぎに近いものがあるとのこと。
今回は山形へ行って実際に「麦きり」を食べてきたのでその内容をレポートしたいと思います。
江戸時代の文献にある「切麦や」の存在
これまでもひやむぎに関して調べてはきたのですが、その発祥やルーツに関する情報がほとんどなく産地や歴史といったものもわかりませんでした。
唯一手がかりとなったのが、国会図書館で見つけた文献に記載されていた「梅津正景」という家老が記した日記の内容です。
油不入そうめんが秋田藩に登場する以前にきりむぎが存在していた。〜中略〜 家老は梅津政景である。彼は京都へ何度もおもむいている。彼の日記の慶長十九年(一六一四)十一月二一日の条に「切麦や二間(軒)」と出てくる。
『日本めん食文化の一三〇〇年』農文協
江戸時代のひやむぎは「切麦」とも呼ばれていたので、この「切麦や」というのは今でいう「ひやむぎ屋」のことを指します。つまり、当時はひやむぎ屋が普通に存在していたことを記しています。
そのうちの一軒は「京の甚兵衛」なる人物が運営しており、梅津正景が京都へ訪問した際にスカウトしたのではないか、と評されていました。
この梅津正景を召し抱えていた佐竹義宣は、慶長7年(1602年)に常陸国(茨城県常陸太田市近辺)から出羽秋田(秋田県北部)へ移封されており、ここから切麦(=ひやむぎ)の技術が隣接する山形へ伝わった可能性があります。
そして、その切麦が現在は「麦きり」と名前を変えて庄内地方に残っているのではないでしょうか。
山形で食べた3種類の「麦きり」
今回は「麦きり」を提供している3軒のお店を回って、それぞれの「麦きり」を食べ比べしてみました。山形へ麦きりを食べにいきたいという方は参考にしてみてください。
【寝覚屋半兵エ(ねざめやはんべえ)】
まず最初に訪れたのは鶴岡のHPでも紹介されている「寝覚屋半兵エ」。平日の遅い時間だったのでお客さんも2,3人程度でゆったりとした時間が流れていました。
店内はお座敷もあってかなり広く駐車場も大きいので大人数で来ても問題無く対応できそうです。
本来は蕎麦との合盛りを食べたかったのですが、3人前からとのことだったので「麦きり」の単品を注文。ほどなくして出てきました。
思ったより太めで細切りのうどんと表現してもいいかもしれません。薬味はネギと辛子で初めてみる組み合わせでした。
独特のシコシコとした食感はあまり熟成感がなく、練ったらすぐに打つタイプの麺なのかもしれません。つゆもあっさりとしていてシンプルな町蕎麦屋さんのような味わいでした。
帰りがけにお土産を購入しているお客さんもいて、自宅でも楽しめるタイプのは嬉しいですね。
【住所】山形県鶴岡市馬町枇杷川原74
【電話】0235-33-2257
【交通】JR羽越本線羽前大山駅より徒歩約30分。タクシーで約10分(1420円程度)。 または鶴岡駅より庄内交通バス湯野浜温泉行き(善宝寺経由)で30分(630円)、椙尾神社前下車徒歩2分。
車 日本海東北自動車道鶴岡西ICまたは庄内空港ICより約10分
【営業時間】10時~15時
【定休日】毎週水曜日・毎月第2火曜日
【駐車場】あり/無料
【HP】食べログ GoogleMap
【蕎麦きり 風土(そばきり ふうど)】
「蕎麦きり 風土」はGoogleマップで「麦きり」と検索した際にレコメンドされてきたお店です。庄内観光サイトにも紹介されていて気になったので訪問してみました。
夜の営業時間に合わせてタクシーで向かおうと思ったのですが、駅前のロータリーにはタクシーが1台もなく、送迎も1時間後ということでかなり時間をロスしました。もし夜にお店へ行く際は早めに送迎タクシーを準備しておいた方がいいようです。
お店の外観は真新しく和モダンな感じで東京にあるおしゃれなお蕎麦屋さんと比べても遜色ない造作です。店内の天井も高く開放感のあるので、人数が多くてもゆったり過ごせそうです。
こちらのお店では通常の麦きりではなくどうしても気になってしまった「すだちの麦切り」を注文しました。
こんもりと山のように盛られた麦きりは少し幅の広い平打ち麺。お店によって麺の切り方に特徴があるようです。
瑞々しい口当たりでつるつると喉の奥に消えていく食感がたまりません。すだちのさっぱりした風味とも相まって夏場にはかなり美味しく食べられる麦きりだと思いました。
【住所】山形県鶴岡市八ツ興屋字土屋俣55-4
【電話】0235-22-8650
【交通】JR鶴岡駅から車10分、鶴岡ICから車15分
【営業時間】
[月曜日]
11:00~15:00
[火~日・祝]
11:00~15:00 17:00~20:00
【定休日】不定休
【駐車場】あり/無料
【HP】食べログ GoogleMap
【大松庵(だいしょうあん)】
最後に訪れたのは鶴岡駅からは少し離れたところにある「大松庵」。古民家風の店舗には素敵な庭があるようなので行ってみました。
訪問した日は大荒れの天気で駅からお店へ向かうのにも苦労しました。この天気で平日の口開けなら余裕で入れるだろうと思っていましたがすでにお客さんが二組も。休日は並ぶのを覚悟したほうがいいかもしれません。
店内は少し薄暗い古民家風で椅子などの調度品もこだわりがあるようでした。天気の良い日であればもっと良い雰囲気になるのだと思います。
蕎麦と麦きりの両方を食べることのできる「合のり」を注文し一息つくと、しばらくしてつゆとわさびが運ばれてきました。
生わさびは自分で好きなだけ擦ることができるのでわさび好きにはたまりません。つゆもしっかりと出汁感が出ていてかなり美味しい。
大きめのせいろにさらっと盛られた麦きりは蕎麦とほぼ同じ太さで、まさに「正統派ひやむぎ」といったところでしょうか。
一口すするとこれがまた美味い。小麦の風味をしっかり感じる自分好みの味でした。喉越しや食感も良くクオリティの高い麺作りに感嘆しました。
同時に供されている蕎麦も香りが強く、こちらもその美味しさに思わず唸ってしまいました。麦きりも蕎麦もどちらも納得の美味しさです。鶴岡方面に来るのであれば間違いなくおすすめのお店だと思います。
【住所】山形県鶴岡市水沢行司免43-13 map
【電話】0235-35-4041
【交通】JR羽越本線羽前水沢駅より徒歩約15分。または鶴岡駅より庄内交通バスあつみ温泉方面行きで35分(590円)、新橋下車徒歩1分。
車 日本海東北自動車道鶴岡西ICより約2分
【営業時間】11時~15時
【定休日】木曜、金曜(祝祭日は営業)
【駐車場】あり/無料
【HP】食べログ GoogleMap
ひやむぎの発祥やルーツは山形なのか?
今回、ひやむぎのルーツを求めて山形の庄内地方へ足を運び、郷土料理の「麦きり」をいくつか食べてみました。
結論からいうと「麦きりとひやむぎはかなり近しいものではあるが、発祥やルーツが山形であるのかは分からない」という印象です。
麦きりを提供している店舗のほとんどが蕎麦を提供しており、蕎麦がメインで麦きりはあくまでもサイドメニュー的な意味合いを強く感じました。
つまり、東京の蕎麦屋が蕎麦とうどんを提供しているのと同じように、庄内地方の蕎麦屋は蕎麦と麦きりを提供するという文化や土地柄なのでしょう。
日本の麺の歴史を紐解くと「そうめん→ひやむぎ→うどん→蕎麦」の順で生まれていて、ひやむぎはそうめんとほぼ同時期に生まれた歴史的に古くからある麺のジャンルです。
また、うどんはひやむぎから発祥したと考えられていて、温かいつゆで食べても美味しくなるようにひやむぎを徐々に太くしたと言われています。
そう考えると、少なくとも江戸時代まで存在していた「切麦や(=ひやむぎ屋)」が現代に1軒も残っていないのは、時代とともに「うどん屋」や「蕎麦屋」に名称を変えていったからなのかもしれません。
今回の旅を通じて、当店は数百年の時を超え現代に復活した「切麦や(=ひやむぎ屋)」なのだなと知ることができました。
そして、日本で唯一のひやむぎ専門店として、より多くの人達にひやむぎの魅力を伝えられるように頑張っていきたいと思いました。
【特撰ひやむぎ きわだち】
東京都墨田区太平1−22−1 ソラナ錦糸町102
(錦糸町駅北口より徒歩8分、東京スカイツリーより徒歩14分)
12:00~15:00 18:30~22:00 (L.O.30分前)
火・水曜日定休
070-8385-6913